ZEN-UN-YU 全運輸労働組合


日航907便事故の関係者の書類送検にあたって(談話)

 5月7日警視庁は、2001年1月31日に発生した日本航空907便と同958便の異常接近に係る事故について、関係する航空管制官2名(訓練監督者および訓練生)と日航907便の機長について業務上過失致傷罪等の容疑で書類送検を行いました。
 全運輸労働組合は、事故発生直後から労働組合として組合員の生活と権利を擁護する立場から、2人の管制官の雇用と身分を守るために全力をあげると同時に、こうした事故の再発を防止するために客観的・科学的な事故原因の究明と実効ある再発防止策の確立を求めてきました。今回の書類送検は大変残念な結果ですが、この機会に今後の捜査にあたって懸念される事柄について当該労働組合としての見解を明らかにするものです。

 その第1は、航空・鉄道事故調査委員会の事故調査報告書等の扱いについてです。
 日本も批准する国際民間航空条約の第13付属書では、航空機事故調査における、事故関係者の口述、航空機との交信記録、関係者の医学的または個人的情報、ボイスレコーダー記録、フライトレコーダー情報、解析および述べられた意見について事故またはインシデント調査の目的以外に使用してはならないとしています。また同付属書では、「罪や責任を課すためのいかなる司法上または行政上の手続きも、航空機の事故調査とは分離されるべきである」としています。
 複雑な要因が複合して発生する航空機事故の原因究明には、事故当事者からの包み隠さない証言が極めて重要です。もし、黙秘権などの刑事訴訟法上の権利が告知されていない証言内容が、その後の司法当局の捜査や民事・行政上の責任追及に使用されれば、今後の事故調査において事故関係者の協力が得られなくなるからです。しかし我が国においては、航空機事故にかかる捜査で、事故調査報告書が嘱託鑑定書として捜査機関に提供されるなど、航空機事故調査の基本とされるべき事項が遵守されていません。
 事故調査報告書等の取り扱いについては、国際民間航空条約第13付属書の規定を遵守するよう強く求めるものです。

 第2には、管制官個人の技量や能力のみに偏った責任追及では事故の再発防止にはつながらないということです。
 今回の事故においては、航空当局が航空・鉄道事故調査委員会の調査前に、管制官の言い間違いがあったとの記者発表を行い、各マスコミも当初より管制官個人のミスが事故原因とする報道が行われました。しかし、航空・鉄道事故調査委員会の事故調査報告書では、18項目の「勧告」及び12項目の「建議」、国際民間航空機関(ICAO)への「安全勧告」が行われており、これは事故の発生原因が単一のミスや失念だけではなく、管制システムや運用方式の不備など多くの事象の連鎖によるものであることを証明しています。
 とくにTCASについては、航空・鉄道事故調査委員会がICAOに「安全勧告」を行う一方、ドイツにおいて日航907便事故と酷似した空中衝突事故が発生していることから、事故の再発防止の観点からも引き続き検証を深め、世界的規模で再発防止策を確立する必要があります。
 また、事故が発生した空域・経路は、以前から航空交通の集中や航空機の錯綜が指摘されており、日航907便事故に類似した不具合事例も発生していました。しかし再発防止策の基礎となる報告制度の改善や空域再編などの具体的対策は、日航907便事故発生まで実施されていませんでした。
 さらに航空局は、これまで様々な事故再発防止策を策定していますが、訓練の強化などいずれも管制官個人の技量や能力に着目するもので、「人間からエラーをなくすことはできない」というヒューマンファクターの基本的視点に立った科学的検証にもとづく具体的な施策はほとんど実施されていません。

 今後、以上のような観点からの公正な捜査が行われるよう希望するものです。

2003年5月9日

全運輸労働組合
書記長 宮垣 忠


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