ZEN-UN-YU 全運輸労働組合
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機関紙「全運輸」
2006年
04月01日号
(号外)
要求で団結し 職場に真の労働組合をつくろう

国民のための行政を確立しよう

■1〜2面

日航907便事故裁判判決要旨


「全運輸」 1〜2面
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日航907便事故裁判判決要旨

 2006年3月20日、東京地裁において、約1年6ヶ月にわたり審理が行われた日本航空907便事故裁判の判決公判が行われ、安井裁判長は被告人である管制官2名に対して、いずれも無罪を言い渡しました。事故発生から約5年2ヶ月、全運輸一丸となってとりくんできた本裁判は、内容的にも弁護側の主張をほぼ全面的に認め、完全な勝利裁判となりました。また、法曹界としても、システム性事故における個人責任追及についてあらたな観点を打ち出す画期的な判決内容と言えます。今回は、その判決理由の要旨を掲載いたします。

I .起訴状記載の公訴事実の要旨

  省略

II .専門用語の説明及び本件における意義(検察官の主張)

1.「管制間隔」について

 航空管制官が航空交通管制業務を適正かつ確実に実施するために準拠すべき基本的かつ重要な事項を定めている航空保安業務処理規程では、管制間隔とは、「航空交通の安全かつ秩序ある流れを促進するため航空管制官が確保すべき最小の航空機間の空間をいう」と定義されている。
 日航907便及び日航958便は、29000ftを超える高度を航行していたところ、本件当時、本件空域における管制官が確保すべき管制間隔は、同規程の管制方式基準により、2000ftの垂直間隔又は5海里の水平間隔とされていた。
 検察官は、「管制間隔を確保すべき義務は、管制官が業務上遵守すべき基準行為そのもので、まさに本件業務上過失傷害における注意義務である」と主張している。

2.「航空機衝突防止装置」(TCAS)について

 TCASは、相手機との電波の送受信による情報を基に、航空機双方の方位、相対速度、高度及び距離を自動的に算出して衝突の可能性の有無を計算し、航空機の機長ら乗員に対して回避措置を取るよう指示する機能を有する装置である。TCASは、最終的には、レゾリューション・アドバイザリー(RA)と称する上下方向の回避措置の指示を発する。RAは両機の最接近時により大きな垂直分離間隔のとれる方向に出されるものであり、一方の航空機に上昇RAが発せられた場合、他方の航空機には降下RAが発せられる仕組みになっている。
 このため、例えば、一方の航空機が降下RAに従って降下し、他方の航空機が上昇RAに従わずに降下すると、両機が接触・衝突する危険性が飛躍的に高まることになる。本件では、上昇中に被告人蜂谷から降下指示を受け、これに従っていた907便の機長は、上昇RAに従わずに降下操作を続け、907便とほぼ同じ高度を巡航中であった958便の機長は、降下RAに従って降下操作を行ったことから、両機が共に降下して著しく接近し、両機の衝突を避けるべく機長が907便を急降下させたため、907便の乗客らが負傷するという結果が発生したものである。
 検察官は、「本件当時の状況等に照らすと、機長が被告人蜂谷の降下指示に従い、上昇RAに従わなかった判断は十分合理的なものであり、その判断が通常人にとって予見不可能なほど不適切なものとはいえないし、958便の機長が降下RAに従った判断も当然のものである。
 したがって、被告人蜂谷の907便に対する降下指示があったからこそ、907便の乗客らが負傷したのであり、この間において通常人が予見できないような異常な事態が介在したとは認められないから、被告人両名の過失行為と907便の乗客らの負傷という結果との間には因果関係がある」旨主張している。

日航907便事故裁判とは

 2001年1月31日、羽田空港を離陸し那覇空港に向かっていた日航907便と韓国釜山国際空港から成田空港に向かっていた日航958便が、同日15時55分頃静岡県焼津市の南約13キロの海上上空で異常に接近し、双方が回避操作を行ったが、907便において乗客・乗務員100名が負傷した。2004年、3月30日、東京地方検察庁は、事故の主たる原因は担当していた航空管制官のコールサインの言い間違いなどの過失によるものと判断して、当時、航空管制を担当していた東京航空交通管制部の管制官2名(訓練生、訓練監督者)を業務上過失傷害罪で起訴し、同年9月から東京地裁で争われていた。


III .当裁判所の判断

1.本件を検討するに当たっての留意点

(1)検察官は、被告人両名の過失に関し、管制間隔を維持するという管制方式基準上の義務が本件業務上過失傷害における注意義務を構成するとし、上記義務に違反して907便と958便との間の管制間隔を欠如させた被告人両名には、業務上過失傷害罪の過失がある旨主張している。
 しかしながら、管制方式基準上の義務と業務上過失致死傷罪における刑法上の注意義務とは、必ずしも一致するとは限らないから、被告人両名が管制方式基準上の上記義務に違反したことから直ちに業務上過失傷害罪の過失があるとすることは、相当ではなく、本件公訴事実において過失行為とされている被告人蜂谷の907便に対する降下の指示が、両機の接触・衝突を招く危険性のある行為であったといえるかどうか、907便の乗客らの負傷という結果を発生させる実質的な危険性のある行為であったといえるかどうか、をまず検討する必要がある。
(2)また、検察官は、被告人蜂谷が便名を言い間違えて管制指示を行い被告人籾井がこれに気付かなかったということを、本件業務上過失傷害における過失行為の一部として取り込んでいるが、この点についても注意が必要である。
 便名を言い間違えて管制指示を行うことが適切でないことは、明らかだが、便名を言い間違えて行った管制指示であったとしても、その結果特に航空機同士が異常接近するような事態にはならず、各航空機間に安全な間隔が保たれていたというのであれば、便名の言い間違いは業務上過失傷害罪における刑法上の注意義務違反を構成しないのである。
 したがって、被告人両名の過失を検討するに当たり、被告人蜂谷が便名を言い間違えたと言うこと自体を重視することは、相当ではなく、被告人蜂谷の管制指示の内容の適否を、上記(1)の観点から検討すべきである。

2. 過失行為としての実質的危険性の有無

 関係証拠によれば、CNFが表示された直後に被告人蜂谷が便名を言い間違えずに958便に対して降下の指示をしていた場合には、907便と958便が水平面上で最も接近した時点において、両機間に2000ftの垂直間隔(管制方式基準所定の管制間隔)を確保することができたが、被告人蜂谷が便名を言い間違えて907便に対して降下の指示をしたため、両機間に上記の管制間隔を確保できなくなったものであると認められる。したがって、被告人蜂谷の907便に対する降下の指示が管制方式基準を満たさない不適切なものであったことは、明らかである。しかしながら、被告人蜂谷は、CNFが表示された直後に907便に対して降下の指示を出したのであるが、その後、両機の機長が被告人蜂谷の管制指示に従って、907便の機長においては降下の操作をし、958便の機長においては巡航を続けた場合には、両機が最も接近した時点で、両機間には約1000ftの垂直間隔が確保されたものと認められるのである。結果的に両機間に約1000ftの垂直間隔を確保することができたはずの被告人蜂谷による管制指示は、それ自体を捉えて、907便の乗客らの負傷という結果を発生させる実質的な危険性(両機の異常接近を招く実質的な危険性)のある行為であったといえるであろうか。
 関係証拠によれば、この点に関して、次の(1)ないし(4)等を指摘することができる。
(1)管制間隔は、ある程度の許容範囲を見込んで設定されており、2機の航空機が管制間隔よりも接近した場合に直ちに接触・衝突の危険が発生するというわけではない。
(2)907便及び958便は、いずれも29000ftを超える高度を航行していたが、管制方式基準は、航空機が29000ft以下の高度を航行する場合の垂直間隔については1000ftと定めている。また、両機は、いずれも管制方式基準上の洋上空域ではない空域を航行していたが、管制方式基準は、航空機が洋上区域を航行する場合の垂直間隔については1000ftと定めている。
(3)本件後の平成17年9月から、航空機が本件空域を29000ftを超える高度で航行する場合の管制間隔(垂直間隔)については1000ftに縮小された。
(4)公判廷で証言した機長らは、いずれも、1000ftの高度差を持って他の航空機と交差する場合には危険と感じない旨供述している。
 上記の(1)ないし(4)等によれば、29000ftを超える高度を航行中の航空機2機が最も接近した時点で、両機間に1000ftの垂直間隔が確保されていた場合、両機間には接触・衝突の危険性のない間隔が保たれていたというべきである。また、上記のような場合には、両機の機長ら乗員が両機の接触・衝突の危険を感じて急激な上昇、降下等を伴う無理な操縦を行うおそれはないと認められるから、両機の乗客らが負傷する可能性もないといえる。そうすると、本件公訴事実中の「両機間に管制方式基準所定の管制間隔が欠如するに至って接触、衝突の危険が生じる場合」という部分(2000ftの管制間隔が欠如すると、接触、衝突の危険が生じるという趣旨と解される)については、そのままこれを認定することができない上、本件公訴事実においては過失行為とされている被告人蜂谷の907便に対する降下の指示は、その段階では907便と958便の接触・衝突を招く危険性のある行為ということはできず、907便の乗客らの負傷という結果を発生させる実質的な危険性のある行為と認めることもできない。なお、後記3で認定しているRAの発生を含むTCASの作動状況等とこれについての管制官一般や被告人両名の認識状況等にも照らすと、被告人蜂谷の907便に対する降下の指示の実質的な危険性を判断するに当たり、RAの発出とそれに伴う両機の機長の措置というその後の自体の流れを考慮することは相当ではないと考えられる。
 以上によれば、被告人蜂谷の907便に対する降下の指示は、業務上過失傷害罪における過失行為としての実質的危険性を有するものとは認められず、また、被告人蜂谷の上記管制指示を是正しなかった被告人籾井の対応にも、過失行為としての実質的危険性は認められないというべきである。

3. 予見可能性ないし予見義務及び因果関係の有無(本件異常接近の原因)

 被告人蜂谷の907便に対する降下指示は、管制方式基準を満たさない不適切なものであったこと、そして、この降下指示が契機となり、結果的に907便と958便が異常接近し907便の乗客らが負傷したことは、動かし難い事実であるから、本件異常接近の原因を検討し、この面からも被告人両名に過失があったとはいえないこと等を明らかにしておくこととする。
 本件異常接近の原因に関しては、TCASのRAが発せられたことが重要であると考えられる。RAが発せられていなければ、両機は、被告人蜂谷の管制指示に従って航行を続け、最接近時には両機間に約1000ftの垂直間隔が保たれることとなって、両機が接触・衝突する危険性は生じなかったはずであると認められるからである。
 関係証拠によれば、本件異常接近とRAが発せられたこととの関係については、次の(1)ないし(3)の点を指摘することができる。
(1)RAは、それ以前に管制官が出していた管制指示とは無関係にTCASという機械の判断により発せられるものであるから、管制官の管制指示とRAが矛盾する内容となることもあり得る。そして、管制官が見ている管制卓のレーダー表示画面には、RAが発せられたことは表示されないため、管制官は無線通信により航空機の乗員からRAが発せられた旨の報告を受けるまでは、RAが発せられたことを認識することができない。管制官が、RAの発せられるであろうことを踏まえて管制指示を行うことは、予定されていない。
 また、本件当時、接近しつつある航空機2機の航行状態に応じてTCASがどのような時期にどのような内容のRAを発するかといった点に関する具体的な情報は、管制官に対し提供されておらず、被告人両名も認識できない状況にあった。
(2)国土交通省航空局が定期的に発行する航空情報サーキュラー、日本航空の運航規程であるオペレーションズ・マニュアル・サプルメント等によれば、RAが発せられた航空機の機長は、RAにしたがって操作を行うことが危険と判断した場合を除き、RAに直ちに従うこととされ、管制指示高度から逸脱する場合でも、航空法96条1項違反には問われないとされていた(ただし、本件当時、管制官の管制指示とRAの優劣関係は、必ずしも十分に明確にされていたとはいえなかった)。したがって、907便の機長は、被告人蜂谷から降下の指示を受けていたが、上昇RAが発せられたのであるから、原則的には、上昇RAにしたがって907便を上昇させる操作を行うべきであった。
(3)ところが、907便の機長は、上昇RAにしたがって操作を行うことが危険であると判断して、RAに従わず、907便を降下させる操作を行った。907便の機長は、上記の判断をした理由として、本件当時上昇RAに従うと失速する危険性があったことなどを挙げている。907便の性能からすると、客観的に見れば、機長の抱いた上記の懸念は理由のないものであったと考えられるが、本件当時、上記航空機のエンジンの性能に関する技術情報は、機長らに対して十分に伝えられておらず、本件当時機長が上記の判断をしたことには、やむを得ない面もあったといえる。
 本件異常接近の原因に関して、被告人蜂谷の907便に対する降下の指示は、前記の通り、過失行為としての実質的危険性があったとはいえない上、上記(1)ないし(3)のような事情が存在したことを踏まえると、被告人両名には、本件異常接近及びこれに起因する907便の乗客らの負傷という結果の発生につき、予見可能性ないし予見義務があったとは認められず、被告人蜂谷の管制方式基準を満たさない907便に対する降下の指示と上記結果との間には相当因果関係があったともいえない。
 これまで見てきた諸事情を考えると、本件異常接近が生じて乗客らが負傷したことに対する刑事責任を管制官や機長という個人に追及することは、相当ではないように思われる。
 なお、前記のような管制間隔を切る管制指示をした被告人蜂谷は、公判廷において、「本件当時907便と958便のいずれを降下させてもよく、907便に対する降下の指示は正しい管制指示であった」旨供述するが、被告人蜂谷が便名を言い間違えずに958便に降下の指示を与えていれば、そもそも本件異常接近は起こらなかったことをかんがみると、上記の供述は、航空交通の安全を確保するという重責を担う管制官としての自覚に欠けるものであるといわざるを得ない。被告人籾井が、公判廷において、「管制官としては、垂直間隔2000ftの管制間隔を保つように業務を行っている。管制間隔の設定には相当の余裕が見込まれているので、管制間隔を切ったから直ちに危険であるというわけではないが、絶対に管制間隔を切ることがないようなつもりで、管制業務をやっている。907便が上昇中で958便が巡航中であったために、巡航中の958便に降下の指示を出すのが一番早いCNFの解消の方法と判断した。被告人蜂谷の言い間違いに気付いていれば、907便に対する降下の指示をすぐに是正していた」旨供述するところが、管制官の認識として正当であるというべきである。

4. 結論

 以上によれば、被告人両名に過失があったとは認められないし、相当因果関係があったともいえないので、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人両名に対しいずれも無罪の言渡しをする。


 

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