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声明・談話

耐震構造計算偽装問題に関して

国土交通省全建設労働組合(略称「全建労」)は、労働条件改善と共に「国民本位の公共事業推進」と「民主的な建設行政」の実現を高く掲げて組合員が一丸となって取り組んできた。日本の国民は地震・火山・風水害をはじめとする災害列島に居住しており、自然災害から国民の生命と財産を守るため行政機関の一員としても行政機関の労働組合としても精一杯奮闘をしてきた全建労にとって、今回の一連の事件は極めて残念である。
国土交通省は2006年2月に社会資本整備審議会建築部会(以下「審議会」と言う)で「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について中間報告」をとりまとめて国民に発表をした。中間報告に関して「原因究明と抜本的な解決」がはかれるのか否かについて全建労としての考え方を紹介する。

01
行政サービスの民営化全般について

1.民間営利企業の労働者について
民間の営利企業の従業員は企業経営者に雇用され、株主の利益と企業にとっての利潤を追い求めている。民主的な労働運動と国民世論によって昨今、経営者団体や企業自信が「社会的責任を果たす」ように変化はしているが、企業としての性質が変化したものではない。


2.公務員労働者の役割について
公務員労働者は国民全体に雇用され、憲法によって国民全体の奉仕者として勤めることを求められている。また、公務員労働者は、国民の権利を国民全体を代表して行使する事が出来る。営利を追求したい企業に対して民主的な規制権限を国民に代わり行使できるのは、国民が雇用している公務員労働者しか存在しない。強い権限を国民から付与された公務員労働者の行為を国民が監視することは、憲法に基づく国民の権利であり、一方では義務でもある。
審議会では「建築確認の民間活用は合理的な政策選択」と主張しているが、建築物に対する規制権限を行使するのは、建築主事若しくは特定行政庁がその任務を行うべきである。建築主事の実務の一部を補助することは議論の余地はあろうが、現在の制度は建築主事と指定確認検査機関のいずれかを申請者が選択できる制度は適正さを欠く。


02
1998年の建築基準法改正と規制緩和について

1.建築確認の民間開放と賠償責任
20005年6月の最高裁判決と横浜地裁判決では、指定確認検査機関の行為に起因する自治体の国家賠償適格性を認めた。建築基準法上では指定確認検査機関が確認申請の実務作業をしても、確認申請の権限そのものを自治体が指定確認検査機関に渡したわけではないので当然である。


2.1998年の法改正について
一つの問題点は上記1に関連して、指定確認検査機関が不正行為を働いた場合の損害を賠償する制度が無きに等しい状態であった。数億円〜数十億円の建築物の確認審査を年間に数十件〜数百件行う予見は出来たのに、指定確認検査機関の指定要件では1億円の損害賠償に備える能力しか求めていなかった。指定確認検査機関の出資者(企業)にも損害賠償を求めることは出来ない。
次に指定確認検査機関が私企業であっても、可能な限り厳正・公平な建築確認申請が行える具体的な枠組みが存在せず、結果的に建設業及び住宅関連産業が指定確認検査機関の出資者となり、子会社が親会社の審査をする形態となっていた。
更に確認申請に「市場原理」を持ち込み、お互い競争関係にある指定確認検査機関が厳重に念入りに審査をすれば企業経営が成り立たない仕組みとなり、「早く」「安く」「おいしい(甘い)」指定確認検査機関が生き残ってしまう。
1998年の法律改正時に十分予見可能で、しかも現実として発生をしてしまったこれらの問題点を審議会は是正をするように求めているのは当然として、抜け穴が目立つ制度が何故作られたのかについてはふれられていない。


03
検査及び審査について

1.検査の義務づけについて
将来の子孫に残せる文化的で創造的な意匠で、厳格な設計と厳密な構造計算が行なわれても工事現場における段階毎の施工の確認と検査は省略することは出来ない。二階建て程度で倒壊による周囲への危険が著しく低く、不特定多数の利用が無い個人が居住する住宅を除いて、日弁連が構造偽装事件発覚後に提言をされているように建築行程毎の厳格な検査が必要である。大規模若しくは高層建築物、道路や避難路に面した建築物、その他地域住民が必要と判断する場合等には、検査官が常駐するよう提案された日弁連の考え方に賛同する。地域住民の安全・安心のために地域住民が技術者を雇用して監視の任務にあてるべきである。


2.建築主事等の技術力について
構造偽装事件発覚直後の新聞では、関西の建築士の話として「構造計算書を役所に出してもきちんと読める役人はわずか」と建築主事の技術力不足を厳しく指摘している。「定員削減は政府全体の方針」として、国家行政機関職員も地方政府職員も闇雲に定員削減を進めている。「国民の安心・安全」が実行するための建築確認のためには「何人の職員と建築規模に応じて何日が必要であるか」を明確にせず、技術者も含めて大幅に定員削減を進めている。建築主事に対して求められる「高度な技術と豊富な経験」がどのようなものであるのかも不明瞭なままで、結果的に技術者の質と量の確保は定義すらされないまま定員削減が進められている。
審議会では建築主事の技術力や申請数に応じた適切な職員数の最低限度など、国民の不安を一掃する回答が出来ていない。


04
検査及び審査について
構造偽装を手がけた建築士の言い訳に正確ではないが「(偽装)仕事を断ると次の仕事がなくなる」と言うものがあった。不正に手を貸せば人並みの生活が出来るが、高い倫理観を示して不正を拒絶すれば家族が路頭に迷うという主張が事実であれば、日本の建築業界にとって由々しき問題である。
審議会の場でも設計や監理報酬基準について一定議論されたようだが、結論は出ていない。建設業界では設計の分野で既にグローバル化の波を受けて、海外の高技術低賃金(日本の労働者に比べて)労働者を活用して、設計コストを削減する事が珍しくはない。物価や賃金水準が数分の1の国の技術者とコスト競争をさせていくのが、国民生活にとって本当に幸福なのか、大いに疑問が残る。「衣食たって礼節を知る」の言葉通り職業倫理観と職業人としての誇りを持てる報酬を国民全体で負担する方のが本来あるべき姿ではないかと考える。

05
おわりに
政府は公務員労働者を削減し「人件費としての支出を抑えれば国民の負担は軽くなる」と主張している。今回の指定確認検査機関もその一つとして登場した。人件費支出は一面少なくなったが、その代わりに国民は指定確認検査機関の手抜き作業の後始末を「公的支援」と言う形で税金が投入され大きな出費を求められた。今度は、公的支援をしないために「保険金を損害保険会社に支払う方が安心だ」とのうたい文句にはとても信用が出来ない。なぜなら損害保険業界は再保険を日本政府に求めている。公務員人件費や「国家賠償」として国民の税金を支出する代わり「再保険」として国民の税金を投入するのが小さな政府の狙いでは無かろうか。
また、審議会では耐震強度規制が強化された1981年建築基準法改正以前の建築物の耐震補強対策などについても対応策が不十分である。今回の偽装事件で耐震強度が不足する危険な建築物と判定されて解体処分された集合住宅よりも、耐震強度が低い可能性のある建築物が「建築時には適法であった」として現在でも多くの国民が居住している。正確な数値が示せないが一部では、耐震強度不足住宅は1.200万戸とも言われている。国民の生命と財産を守るためには一刻も早い建築物全般の耐震強度対策が必要である。
2006年4月12日
国土交通省全建設労働組合
【中央執行副委員長】玖村 徳則
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