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声明・談話

耐震構造計算書偽造事件に関して考え方

建築基準法は第1条で「国民の生命と健康、財産の保護」を謳い「公共に福祉に資する」と目的を明確にしている。公務・民間にかかわらず建築の業界に携わる全ての関係者が誠実に法の目的に添って、仕事をしなければならない。今回一部の不心得者により耐震基準を満たさない危険な建築物が建設され、そのまま販売され、マンションの購入者は損失を被り建物周辺の住民を重大な危険をさらすことになった。こうした事態に至った関係者は、危険な建築物の販売・製造者、建築確認を行った民間の検査機関、建築主事と特定行政庁、法律を所管する国土交通省が主たる者である。全建労は「国民の生命・健康・財産を守る」ためには、二度と今後こうした事件が発生しない制度を作るための原因究明が必要だと考える。

01
98年の建築基準法改正による民間の確認検査機関

1.建築確認の民間開放について
2005年6月の最高裁判決は「民間の検査機関行った建築確認は自治体の事務」との判断を示し、11月の横浜地裁では更に踏み込んで「検査機関の故意や過失は自治体が損害賠償を負う」と判断をした。特定行政庁は民間検査機関が行った建築確認の責任を問われることになれば、民間の検査機関が適切に業務を執行しているかのチェックをする必要が生じる。国民は民間の検査機関に料金を支払い建築確認をとり、建築確認と同様チェックをする自治体の人件費も税金として支払いを求められる。
北側国交大臣は11月22日の段階で「公の事務の関与があり、純然たる民間の問題ではない」と見解を示し、政府は12月6日に分譲マンション購入者に対する支援策を取りまとめ、「公的資金」と称する税金の投入を決定した。
建築確認の民間開放は、行政事務を「官から民」へ移し、建築確認を担当していた公務員労働者も民間検査機関に再就職している。しかし最終的な「責任」だけは「官」に残したままとなっており、そして「被害者の救済」として莫大な国民の税金が投入される事には納税者として納得することが出来ないという声も既に現れている。
建築確認民間開放のように「官から民」に行政事務を移す際には、補償を含めた最終責任まで「民」に持たせるようにすべきである。そして、民間の検査機関が最終責任を終える制度も合わせて整備する必要がある。業界最大手の日本ERIでも総資本は24億円程度で、今回の解体費用など50億円に遠く及ばず、全ての損害を賠償できる企業規模ではない。今回の耐震計算偽造の全体像はまだ明らかではないが12月6日現在で全国に63 棟あり、完成済みのマンション13棟だけで被害額は140億円といわれる。これだけの被害を全てまかなうために、民間検査機関は企業単独若しくは業界団体として全ての損害を賠償できる保険制度を創設すべきである。


2.民間検査機関の公平・中立・公正な審査について
98年の建築基準法改正で民間の検査機関誕生に際して「営利目的の株式会社が公平・公正な立場が保持できるのか」との危惧が、日弁連を始め各界から示されている。全建労も建設行政研究集会で「建築確認は行政機関で行うべき」との見解を示している。民間検査機関業界最大手の日本ERIは大手ハウスメーカーの出資で設立され、その他の民間検査機関も大手ゼネコンや東京電力・東京ガス、損保、金融機関の出資をうけ、いずれも住宅に大きく関係する業界が名を連ねている。そして、民間検査機関には主要株主からの建築確認申請が届いている。
新聞報道によれば、資本だけでなく主要株主から出向社員も相当数受け入れていることが判明している。
こうした危惧に対して、民間検査機関の役員は建築確認の公平・公正さについては「出資会社であっても融通も便宜もない」と言われている。しかし製造者が自らの子会社で製品検査行っていては、国民の信頼を得ることが出来ない。


3.確認検査員の独立性について
建設業界は重層下請構造で熟練下請労働者が構造上の危険性を発見しても、力関係から元請に対して是正を言いにくい構造がある。今回の構造設計偽造事件でも、事件を公表すると主張する民間検査機関に対して販売者が圧力をかけた疑いが報道されている。民間の検査機関が子会社的な存在であれば、民間検査機関の確認検査員が親会社の不正を告発できる環境にあるのかについても疑義がある。公務員には、このため強い身分保障が民間と異なり整備されている。民間検査機関の確認検査員についても公務員的な身分保障をしなければ、解雇や降格、減給を恐れる余り不正を告発できない可能性がある。


4.確認検査業務について
当初は民間検査機関の偽造見落としだけであったが、その後特定行政庁においても同様に偽造見落としが判明した。偽造の見落としが検査機関や特定行政庁の「落ち度」や「技術力」の問題であるかに要に一部で報道されているが、本質的には特定行政庁でも民間の検査機関でも審査に使用している「実務指針」の確認項目に問題があったと思われる。建築確認の審査は建築基準法、消防法、電気事業法、電波法、航空法その他多くの関係法令や自治体の定める条例等多岐にわたる膨大な量であることが想像できる。建築主事の確認に置いても、本来の審査内容は構造計算を始め膨大な法律や情勢に対する審査を求め、一方で審査の期間は3週間と定めたために、現実的な対応として「審査の実務指針」が生まれてきたものと思われる。本来全ての法律と条令に基づき適正な審査をするのに、どの程度の期間と人員を要するのか、建築部門は当然であるがどのような専門家が必要であるのか等を改めて再検討が必要である。また、財政面からの要請で大半の自治体で「行政改革」の名の地方公務員の一方的な削減が行われているが、建築確認申請件数に対してどの程度技術レベルの何人の職員が必要なのかを特定行政庁では示すべきである。
民間検査機関でも「偽造見落とし」を追求された今になって「図面や計算書の全てをチェックすることは出来ない」「法律はそこまで求めていない」更に、「審査水準はどこの検査機関も特定行政庁も同様」と開き直りとも取れる弁解が聞かれる。まずは特定行政庁で建築物の目的や規模に応じて「徹底した審査に必要な本当の確認検査員の数は何人なのか」を示し、民間検査機関の確認検査員の数に応じた適正に処理できる審査件数を再設定すべきである。


5.構造計算について
構造計算の国土交通省大臣認定ソフトであれば構造計算書のデータに評定番号のヘッダーが表示されることになっているが、民間試験機関の一部は「ヘッダー表示の認識がなかった」事を明らかにしている。一方、認定の構造計算ソフトウェアは市販のソフトで容易に改造できると12月2日読売新聞は報道している。そもそも認定ソフトは複数の会社が独自に開発して販売しており、しかもソフトは高価で互換性がないといわれている。構造設計を行う一級建築士がどのソフトを使うかは自由で、本来は特定行政庁や民間検査機関でも全てのソフトを備えていなければならないのに、「予算の制約があり困難」と指摘されている。
電子図面を作成する図面作成ソフトは市中に数多く出回っている。国土交通省は公共工事の成果品として図面の電子納品を行うための図面作成ソフトについては統一基準を示している。しかし、構造計算ソフトについては統一化が図られていない。こうしたことで、仮に構造計算電子データを特定行政庁や民間検査機関に提出しても実際にプログラムを走らせることがこれまで出来ていない原因ではないかと思われる。また、再三にわたり構造計算書は「分厚い」と関係者がチェックの困難さを訴えている原因がある。
民間開放された建築確認では、省令で計算用ソフトウェアに「認定書」があれば民間の検査機関は、計算書類の検算が省略できることになっている。しかし、計算用ソフトプログラムの偽造が行われて場合には対処できないため、検算を省略出来ないようにすべきであり、あたかも計算用のソフトウェアの販売促進のために「検算省略」はなくすべきである。市販のプログラム改造ソフトが販売されていることも既に報道されている。


02
良質な住宅と瑕疵担保

1.施工確認について
今回は耐震構造計算書の偽造が問題となっているが、安全な建築物を作り上げるためには、構造計算だけではなく現場での適正な施工確認が必要である。公共建築物も民間住宅も阪神淡路大震災で倒壊した建物から接合されていない鉄筋やコンクリートから木片が見つかり、その後には鉄道コンクリート剥離事件でも生コンへの加水をはじめとする施工上の様々な「手抜き工事」が問題となった。土木や建築構造物は一度の中間検査や完成検査だけで施工途中の手抜き工事を発見し是正することは極めて困難である。
従って、民間の建築物であっても特に高層建築物の場合には倒壊や崩落等より入居者はもとより周辺住民への被害・迷惑が予測される場合や、道路に隣接した建築物の場合には倒壊によって道路が封鎖され、避難路をふさぎ緊急車両や救援を遅らせることになりかねない。このため、一定の要件を備えた場合には、民間の建築物であっても官公庁施設の建築物と同程度の段階確認・検査をきめ細かく行う必要がある。


2.瑕疵について
住宅品質促進法の施行によって、住宅の販売者は10年間の瑕疵担保責任を負うことになった。今回の構造計算偽造事件で露呈した問題は、法律で販売者に10年間の責任を負わせても販売者が倒産すれば住宅購入者は瑕疵を問うことが出来なくなる事である。今回危険な建築物を販売した当事者はあろう事か「当社が倒産すればお客様に迷惑が掛かるので公的資金を投入すること」を会社のホームページ上で堂々と主張している。危険な建築物を買い戻すのに必要な資金は150億円程度必要であるのに、販売会社の資産は数億円程度で建て替えに必要な50億円すら及ばない。瑕疵担保を裏付けするためには金融機関の破綻に備えた預金保険機構のような、業界全体での支え合いを国が中心となって責任を持つ制度づくりが必要である。


03
建築士試験制度について
建築士は実態として大きく「意匠」「構造」「設備」「施工」の4区分されている。資格試験についても業界の実態に合わせて「建築士構造部門試験(仮称)」等の区分が必要であろう。
また、法・条例改正や技術の進歩に見合う、適切な更新制度も検討が必要であろう。

04
12月6日政府決定の支援策について

1.国民への不安解消策として耐震診断の促進を掲げ、耐震診断に対する国と自治体の一定の補助を予定しているが、全国には耐震強度に不安のある建物が14000万戸存在しており一刻も早い診断と対策が求められる。ちなみに耐震診断費用は1戸当たり10万円と言う数字を仮に当てはめてみても総額は1.4兆円に達する。


2.全く善意の被害者である今回の危険マンション購入者に対する税減免や住宅ローン償還期間の延長などは政府として直接に、若しくは金融機関指導を行うべきである。


3.また、一刻も早く危険マンションから安心した生活が営めるように公務員住宅を含めて公的な住宅への転居先、若しくは新潟県旧山古志村の避難住民と同様に仮設住宅を公立学校の敷地内や公園又は安全に配慮しつつ遊水池などに建設して、安心して住むことが住宅を確保すべきである。


4.しかし危険建築物の解体費用や入居者の転居費用、転居先の家賃などについては、瑕疵担保責任を追及する意味からもマンション販売者を始め施工者、設計者、民間検査機関、特定行政庁などが応分の負担を求めて追求すべきである。もちろん一時的に国や自治体が、費用の建て替えをすることはやむを得ない。マンションの建て替え費用については、国や自治体が一部といえでも費用負担することになれば、当然過去の地震で二重ローンを支払っている阪神淡路大震災の被災者、宮崎・豊岡・福井・新潟水害で住宅を失った住民、三宅島の火山避難住民等々全ての自然災害、火災の延焼被害者等への支援も同様に行う必要がある。また、今回の被害者を詐欺事件の被害者と位置づけているのであれば「振り込め詐欺被害者」「先物取引で全財産を失った被害者」等にも同様の支援を考慮すべきである。
民間検査機関は規模の小さな企業であるが、検査機関への出資企業はいずれも日本を代表する大企業がのきなみ顔をそろえており、大手ハウスメーカー、大手ゼネコン、損保、銀行、電力、ガスなどに支援基金などを国として求めていくことが被災者救済の第一歩となる。


05
政治との関係について
自由民主党の政治資金管理団体は12月8日に偽造マンション販売の関係者から受け取っていた企業献金と個人献金の政治献金を全額返還した。返還額は12月9日東京新聞報道によれば2003年〜04年分としてヒューザーに200万円、日本ERIに100万円、その他の企業に 360万円、合計660万円を返還したと報じられている。詐欺まがいの行為を行った企業からの企業献金を返還する理由はあっても、個人献金をなぜ今になって返還するのかを逆に疑われる。
またイーホームズはホームページ上で「伊藤公介衆議院議員と関係のある東京都議に資金応援をした」と紹介している。個人の政治活動が自由であることは憲法が保障するものであり、日本ERIの要に会社の倫理規定で「仕事時間以外の政治活動は自由にできる」とあたかも会社が権利を保護しているかにような記述までしていることに違和感を覚える。
こうした企業と政治家の関係が「献金」で結ばれ、今回偽造事件が発覚した後に国会議員を伴って行政機関を訪れるなどの行為があると、国民からは行政公正さや公平さに疑問を持たれる。

06
最後に

1.建築確認は民間開放をせず、今回の耐震構造計算偽造事件を機会に、国民が安心して住宅を購入できるためには耐震構造計算をはじめとする建築確認は国や地方自治体が建築技術者を直接雇用して、国民に対して公正さと責任を持って住宅行政を行うよう政府と地方自治体に求める。


2.高層建築物の場合は建物倒壊時の被害が居住者にとどまらず付近住民に及び、避難経路が塞がれることも考慮して完成検査だけではなく施工中の段階検査・確認も地域住民の命を守るためにも、公共建築物と同様の水準の検査を国や地方自治体の責任で行うことを求める。


3.現在の建築基準法と法に基づく民間確認検査機関が存続する間には、民間検査機関が万が一誤って検査を通過させた場合の補償が出来る制度の導入を早急に整備を求める。また、住宅販売者の住宅品確法の瑕疵担保期間10年を保障するための制度創設をもとめる。

2005年12月11日
国土交通省全建設労働組合
【副委員長/公共事業対策部長】玖村 徳則
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